ニューヨーク五番街に誇らしく「The World's Largest Bookstore」 と、自ら看板を掲げている本屋がある。 今やニューヨークのみならずアメリカの代表的な巨大ブックストアー・チェーンとなったBarnes & Noble( バーンズ アンド ノーブル)がそれである。
Barnes & Nobleは、1873年にごく普通の本屋として創業した。 躍進が始まったのは、経営者が代わった1971年からである。 過剰在庫品などをバーゲン価格で売り始め、店内のインテリアを現在の木目調と深緑のイメージカラーに統一した。 その後ニューヨークを中心にじわじわとビジネスを広げ、大手ブックストア・チェーンを次々と買収し、破竹の勢いで全米に拡張を始めたのである。
こうして築かれた現在のBarnes & Nobleは、全米に469の直営店をかまえ、傘下の556店舗を加えると(1997年末時点)、実に1000以上もの本屋を抱える、全米どころか世界でも屈指の巨大チェーンに成長した。 1996年には24億4千8百万ドルもの収益を上げ、今なお前年に比べ24パーセント増しという記録的な成長率を見せている。 その蔵書数は、1万の出版社の17万5千タイトルにも及び、高校、大学などの学術書を中心に、医学、経済、芸術、技術、コンピューター関連まで広範なセレクションを誇る。 さらに画期的なことに、ベストセラーを含めペーパーバックからハードカバーまでを、従来の書籍小売業界の常識を覆す高い割引率で売り出しているのである。 その中にはもちろん新刊も含まれ、バーゲン品となると4割りから7割りまで割り引かれるというのだから驚異的である。
しかし、Barnes & Nobleがここまで成功を収めてきた理由は、単にそういった数値的な表れに拠るものではない。 確かに、営業時間の長さ、立地条件の良さ、専門的なサービス、地域住民に根付いたセレクションなどのプラクティカルな面も無視できない要因ではあるが、同店が他の本屋と一線を画している最も重要な点は、そこに長居するにふさわしい快適さがあるかどうかという、どちらかといえばよりソフトでメンタルな、より付加価値的なところにある。 本が好きな人もそうでない人も、皆が喜んで長居してもらえるような快適な本屋を創りたい − 1971年から舵を受け継いだレオナルド・リッジオの、当初からのそういった意思が、全米の人々の支持を集め現在の地位を築き上げた最大の要因といえる。
1万から6万スクエアーフィートという広いスペースに、ゆったりと配置された大きな木目調のテーブル、椅子、そしてやわらかいソファー。 四季を通じて適度な温度に保たれた空間に流れる落ち着いたクラシックミュージック、そして、併設された木目調と深緑といった同じ色調のスターバックスから漂ってくるのは香ばしいエスプレッソの薫り。 あまりの居心地の良さに、自分がカフェに居るのか、書斎に居るのか、居間に居るのかと、錯覚をおぼえる。
Barnes & Nobleのそういった姿勢は、従来の本屋が最も忌み嫌った「立ち読み」や「飲食物の持ち込み」までをも奨励している。 ニューヨーク大学近くにあるアスター・プレイス店には放課後時ともなると多くの学生が集まり、図書館さながら、何冊もの本を探し出してきては調べものをしたり、コーヒーテーブルを囲んでグループで勉強している若者の姿が目に写る。 さらには、あまりの快適さに自室のベッドにでも寝転がるかのように、フロアーでゆっくり読書に耽る若者までも見うけられる。
また、ユニオン・スクエアー店では、毎週のように作家や知識人を招いてのサイン会や講演会などの各種イベントが催されている。 この様に、多彩なサービスで地域住民に知的憩いの場を提供し、コミュニティーにおける文化活動を推進していくということも一つのコンセプトとして重要視しているのである。
Barnes & Nobleは、ニューヨークだけでなく、全米の人々の本屋というものに対する考え方と本との関係を根底から変えてしまった。 同店の進出のため、毎年50もの本屋が消える運命にあるというアメリカ。 本屋は、知識、情報を提供する教育的役割のみならず、リテイルストアーの形を借りた、くつろげる新しい知的文化交流の場へと変わりつつある。
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